4.運動からくる不養生

「運動からくる不養生」と言うタイトルに違和感を覚える方は、少なくないと思います。健康を維持するために「運動」は必要です。しかし、毎日問診し、患者様の話を伺っていると、「運動することは身体にとって良いこと」というイメージが先行し、運動しなければいけない、何でも運動すればいいんだと思いこんでいる方が多いように感じます。

人間は動物ですので、身体を動かすことは大切です。じーっとしていると、体力が低下します。でも、だからといって、何時でも何時間でも運動していいわけではありません。真夜中に走っている人を見ると、運動する時間がないのだろうなあ、こんな時間に走ろうと思うなんて随分健康に対する意識が高いのだろうなあと思う反面、病気を自分で作っているなんて気付いていないんだろうなあと思い、悲しい思いになります。

健康を維持するための基礎知識がないため、寿命を縮めている人は少なくありません。「養生」と言う言葉は知っていても、「養生」を実践している人は少ないようです。このコーナーをご活用いただき、自己管理する方法を是非身に付けていただきたいと思います。


1.運動ってなあに
2. 運動と呼吸
3. 運動する季節
4. 運動する時間帯
5. 運動する時間数
6. 運動する場所
7. 運動と入浴
8. 運動と飲食
9. 運動と睡眠
10.運動を控えるべき時
11.運動と休息について
12.なぜ運動が必要なのか

 

【1.運動ってなあに】

 運動を、「物体が空間において時間とともに位置を変えること」というような話のスタンスで書き始めると、「この世界におけるいっさいの変化を指す」というような概念にまでなり、一向に書き終わらないため、ここでは、人が健康を保つための体操という意味合いで話を始めたいと思います。

yoga

 人が健康を保つためには、適度に活動している状態が良いと考えられます。

このコーナーで言いたい運動とは、関節や筋肉や内臓などに適度な刺激を与えることができる活動を意味します。古来より、健康を保つための活動方法は様々な国で考案されています。その中で、代表的な運動は、ヨーガであると言えます。また、太極拳、自彊術、真向法、肥田式強健術 等が、体系化された運動法です。

 健康体を獲得している人は、武道やスポーツも運動と言えます。

対象を広げると、身体を動かすことすべてが運動と言えますが、労働はあまり運動になっているとは言えません。 労働は、身体を動かしているという印象になると思いますが、肉体疲労を生む行為ですので、人が健康を保つ行為とは言い難い所があります。ただし、労働が心穏やかな状態を生み出している方はその限りではありません。

 運動とは、心身のバランスが取れている活動であると、このコーナーでは認識していただきたいと思います。


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【2.運動と呼吸】
 運動をする際、最も重要なことは、呼吸をすることです。運動をする時は、からだを動かすことに集中してしまいがちです。運動と呼吸は、密接な関係があります。うまく運動したい、上手にからだを動かしたいと集中すればするほど、呼吸が浅くなる傾向にあります。呼吸は、自律神経がコントロールしていますので、緊張すればするほど交感神経が作用して呼吸は浅くなります。だから、運動に集中すればするほど呼吸が浅くなるのは自然の理です。しかしながら、呼吸が浅いと、すぐ息切れをおこし、運動を継続することができなくなります。酸素がからだに充分供給されないと、からだの働きを十分に発揮できなくなるからです。


では、どうしたらいいと思いますか。

運動を行うときは、「呼吸を深くすること」を心がけます。激しい運動や長時間の運動を行うときは、なおさら呼吸を穏やかに継続することを心がけると、同じ運動を繰り返し行うことができます。呼吸を心がけると、酸素が脳に供給されるので、こころ穏やかな状態を継続できます。呼吸は、「こころ」と「からだ」をつなぐことに役立ちます。

  • 運動をしてもすぐ息切れをする。
  • 最近、イライラすることが多い。
  • 肝腎なところでミスをする。
  • うまく運動することができない。

と言う方は、是非呼吸に意識を向けてみてください。 呼吸を心がけるだけで、人生が変わります。

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【3.運動する季節】
 人間は動物ですから、動いていないと筋肉は衰え、内臓の働きが悪くなります。そのため、運動は一年中する必要があります。継続は力なりです。
 しかし、運動することが苦手な人は、ちょっと寒いとき、お天気がどんよりしているときは、家の中で休んでいることを選ぶでしょうね。日常的に運動していない人は、春に運動を始めることが理想的です。
 春は、だんだん温かくなりますので、筋肉が少しずつ柔らかくなります。夏に比べ暑くないため、心臓への負担が少なく済みます。夜も過ごしやすいことから、疲労回復には最適です。夏は、あまり日差しの下で運動することは好ましくありません。黙っていても心臓が活発に動いていますので、取り立てて運動をしなくてもかまわない時期です。秋は残暑が厳しくため、酸素が希薄です。寒暖の差も激しいため、体力を消耗しやすい時期と言えます。冬は寒いですから、筋肉や関節が固く、関節を痛めやすい時期です。動物は、冬眠しています。
 日常的に運動している人は、どの時期に運動しても、気候の影響を受けることは少ないですが、これから体を鍛えようとする人は、冬の時期によく睡眠・休養・栄養補給をして、3〜4月頃より少しずつ運動を開始すれば、好結果が得られるでしょう。
 
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【4.運動する時間帯】
 運動する事は大切ですが、いつ運動してもよいわけではありません。度々夜中にウォーキングやランニングをしている人を見かけますが、膝や腰に痛みを訴えて来院される方に良くみられる行為です。 人間は、夜行性動物ではありません。他の動物は、日が暮れたら休んでいます。夜は、翌日動くために必要な体力を回復させるための時間帯です。運動するために適切な時間帯は、日中です。その原則を基本とすれば、運動する事による障害はないと考えて良いでしょう。
 日中の中で、一番理想と思われる時間帯は、午前中です。その中でも、夜明けから朝食前までの寒さを感じない時間帯が望ましいと言えます。朝は、空気が澄んでおり肉体に酸素を多く取り込むことが可能な時間帯です。何より、睡眠を取ったことにより、心が安定し、精神状態が良く、集中力がある時間帯でもあります。何時から何時頃が良いかは、地域や季節によって異なるため、活字化するには相当の文字数を要します。(東京都調布市の3月頃に限定して言うと、朝6時30分〜8時30分頃が理想的な時間と言えます。)日の出が早くなればもう少し変わります。概ね6時〜11時頃が、運動に適した時間と言えます。 ただ、午後に運動しても問題はありません。ヒトは、お日様が出ている間は活動に適した時間ですので午後5時頃までは、何の支障も出ません。同じ日本でも午後8時近くまで明るいところもありますので、地域や季節を考慮して考える必要があります。 一番問題となるのは、日が暮れてから運動することです。この時間帯以外運動する時間が取れないという方は、その頻度や時間数を考慮する必要があります。その点については、次回の「運動する時間数」で、お話しさせて頂きます。
 
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【5.運動する時間数】
 「運動は、しないよりしたほうがいい」とよく言いますが、これは全く運動しない人がたまに身体を動かすときに用いる言葉です。日常的にからだを動かしている人は、一日の運動量を調整する必要があります。  甲子園を目指している野球チームは、毎日何時間も練習しています。しかしながら、10代の頃なら何時間でも大丈夫というわけではありません。毎日、運動のしすぎであちらこちらに痛みを訴えた運動選手が来院する事からみても、身体に合った適切な運動をする必要があることは明らかです。  そこで、一日にどのぐらい運動することが適当かについて、30年に及ぶ臨床経験やヨーガ指導経験を根拠に、日頃患者さんや生徒さんに申し上げている具体例を書きます。(ただし、スポーツ選手として上達したい人、プロ選手として生活しなければならないという人、病気をしている人や身体に障害を抱えている人は対象外とします。)

 運動は、5歳頃始めるのが適当と思われますが、
年代
5〜9歳代 週4〜5日間 1時間半〜2時間程度
10歳代 週6日間 2時間〜3時間程度
20歳代 週1日間 2時間程度
30歳代 週2日間 2時間程度
40歳代 週2日間 2時間程度
50歳代 週2日間 1時間半〜2時間程度
60歳代 週4日間 40分〜1時間程度
70歳代 週5日間 30分程度
80歳代 週6日間 20分程度
90歳代 週7日間 15分程度
・・と考えます。

5〜19歳頃までは、
 一代一生の体力を培うために必要な運動です。

20歳〜50歳までは、
  体力を維持するために必要な運動です。もっと運動することが望ましいのは言うまでもありませんが、仕事をしながら運動を行うということを考えれば、この時間が限界でしょう。

60歳代以降は、
  体力の低下を防ぐことが目的です。時間的な余裕があることを前提としています。運動する時間数は短くかつなるべく毎日運動する事が望ましい年代です。

上記の運動時間数はあくまでも健康を維持するための目安ですが、確実に実行していただければ、病気に縁遠い生活を送ることが可能かと思います。

 
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【6.運動する場所】
 運動する事はとても大切です。
これまで、運動する意義、運動時の注意点、運動する季節・時間帯・時間数について、お話してまいりました。
 適切な方法で運動すると、見違えるように体力は向上しますが、運動する場所の環境が悪いと、思うように向上しません。それどころか、かえって体の調子を害する場合が出てきます。
 運動する場所は、日当たりが適度にあり、酸素が十分供給されており、室温や湿度が適当なちょうど良い塩梅の場所が望ましいといえます。ちょうど良い塩梅というのは、日本的な表現ですが、漠然とした表現ですよね。むしろ、どんな場所で運動するのが良くないかを書いた方がわかりやすいのではないかと思います。
 まず、空調の悪い密室は適当ではありません。窓がなく、換気装置もないところは、体内のガス交換が十分なされなくなりますので不適当です。また、悪臭のする場所や異臭のする場所も適当ではありません。わざわざ書かなくても、皆の一致するところでしょう。誰もトイレやごみを処理しているような場所では運動しないことと思います。

 また、高温多湿な場所も、適当ではありません。夏のフルマラソンがあまり行われないように、体温が上昇しやすいところで運動を続けることは、身体を損ねます。大人が、炎天下の甲子園で熱戦を繰り広げれば、すぐ熱中症になることでしょう。多湿な場所も、呼吸困難に陥りやすい場所です。サウナの中で激しい運動をすれば、肺の機能が低下して、たちまち呼吸が苦しくなります。入浴時の運動は避けなければいけません。  いずれにしても、運動する場所は、吟味する必要があります。昔から、何事も「時と場所を選んで」行えといいます。ポイントは、呼吸が容易に行える場所であるかということです。  尚、入浴と運動に関する詳細は、次回の「 運動と入浴」で、お話しさせて頂きます。

 
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【7.運動と入浴】
 日本人は、お風呂が大好きです。
温泉番組を至るところで見かけますが、気持ちよさそうだなあと思うのは、私ばかりではないと思います。
 運動して汗をかいた後はひとっ風呂浴びて汗を流そう、と誰もが思うはずです。たまにするなら何の問題もありませんが、これが毎日となると少しばかり問題が出てきます。
運動をすれば、心拍数が上がり、心臓に負担が生じます。入浴することも同じです。心拍数が落ち着かない内に入浴することは、心臓の疲労を助長します。心筋梗塞につながる恐れが出てきます。常日頃、心臓の働きに負担がかかっているとお感じの方は、運動後30分程度時間をおいてから入浴することをおすすめします。

 また、入浴後はからだが軟らかくなるため毎晩柔軟体操をしているという方の話を、問診中よく聞きます。勢いが乗じて入浴中に浴槽の中でしているという人の話もたびたびです。毎日のように繰り返している方は、柔軟体操をすることによって必要以上に可動域が広がるため、捻挫様の症状を発症します。良かれと思ってしたことが、かえって関節を固定する力を損なってしまうことに繋がり、関節周辺に痛みを覚えてしまいます。入浴後の運動は、心臓にも負担をかけます。 入浴の前後30分以内に運動することは厳禁であると考えておいた方が、健康維持には得策です。

 
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【8.運動と飲食】
 運動すると、汗をかきます。お腹も空きます。喉が渇いたら水分を補給し、空腹になったら栄養を補給していることと思います。それがどうしたのという感じでは無いでしょうか。

 補給する水分は、スポーツドリンクを始め、数え切れないほど種類があります。近年の一流選手は、特性ドリンクを作成していることは、周知の事実でしょう。固形物にしても、カロリーメイトをはじめとして、書き切れないほどあります。

 ここで取り上げる問題は、何を飲み食いするかではなく、飲食方法によっては病気が引き起こされますよという話です。
 運動直後、冷たい飲み物を多飲した直後に心筋梗塞を起こして生命が絶たれる例は少なくありません。また、体力が低下しているときは、胃腸の働きも低下しているため、水分を補給しすぎると消化吸収がうまく行われなくなります。その結果、胃がもたれるようになり、体に力が入らなくなります。無理して動いていると、体力を著しく消耗し、怪我を起こしやすくなります。

 また、よくかまないで食事をした後は、運動能力が低下します。食べ過ぎていなくても体を重く感じますので、運動前に空腹を解消するため少量でも食べたいと思ったら、よ〜〜〜くかんで食べることをお勧めします。

 一番注意しなければいけないことは、運動直後の喫煙及びアルコールの摂取です。喫煙は、心筋梗塞を引き起こしやすくなります。アルコールの摂取は、脳卒中の引き金となります。
  ゴルフ場やスキー場で、酒を飲みながらスポーツを楽しんでいる人を良く見かけます。ご自身の病気を引き起こすばかりでなく、他を巻き込んだ事故発生率が非常に高くなります。

 運動と飲食は、とても注意が必要であり、かつ密接な関係であるということが、お分かりいただけたでしょうか。
 
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【9.運動と睡眠】
  運動をすると身体が疲労するため、眠くなります。睡眠は疲労回復に必要ですので、運動した日は、早めに休み、いつもより長めに睡眠を取る必要があります。

 睡眠状態にあるときは、心臓の働きが穏やかになります。と同時に、体温はやや低下気味になります。そのことから、運動直後にすぐ休むことは、働いている心臓を一気にブレーキをかけるように休ませることになりますので、とても危険です。

 毎年正月には、箱根駅伝が行われます。1時間以上全力疾走してきた大学生が倒れこむシーンを、良くご覧になるのではないでしょうか。学生達は、仲間をすぐ抱きかかえ、教護しています。彼らは、選手が横になり寝てしまうことを防いでいるのです。

 ご家庭で少し運動する程度では、それほど心臓に負担をかけませんが、毎日夜運動後にすぐお布団に入ってお休みになる生活を常態化すると、朝方の気温が低下した時間帯に、心筋梗塞を起こす恐れがあります。運動後は、30分以上経過してからお休みになることが、重要です。
 

 
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【10.運動を控えるべき時】
 9回に亘り、運動に関することを様々な方向からお伝えしてきました。運動は、人にとって必要かつ大切なことは、聞くまでも無くお分かり頂いていることと思います。しかしながら、運動してはいけない時と言うことに思いを寄せたことがおありでしょうか。

 24時間生活する時代になり、夜遅くにランニングをする人や深夜スポーツジムに通っている人も少なくありません。若いときならあまり異常を感じないでしょうが、長期間継続していると、心筋梗塞を発症する恐れがあります。
 最も恐れなければいけない時は、薬物を使用している時です。大量の薬や身体に強い影響を及ぼす薬を服用した時は、運動を控えなければいけません。また、飲酒した時も同様です。いずれも、急死につながる恐れがあります。  運動をすると心臓に負担がかかります。体が衰弱しているとき、体が衰弱しそうな行為をしたときは、運動を控えるときだと言えます。

 
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【11.運動と休息について】
 運動の重要性や運動をする際の注意点をお話して来ましたが、ここでは運動の質を高めるお話です。運動をする際呼吸が大切であることは「2.運動と呼吸」でお話しました。
  運動と呼吸が一体化することが質の高い運動に求められます。次に重要なことは、休息です。人の体は、長時間の運動に耐えられません。適度な休息が必要です。

 運動に関して10回に亘り、書いてまいりました。「1.運動ってなあに」において、人が健康を保つための体操という意味合いで話を始めたいと申し上げました。その後、健康を保つための方法論を9回様々な角度からお伝えしました。繰り返しお読みいただき、ご自分の健康管理に役立てていただきたいと思います。

 
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【12.なぜ運動が必要なのか】
 運動に関して10回に亘り、書いてまいりました。「1.運動ってなあに」において、人が健康を保つための体操という意味合いで話を始めたいと申し上げました。その後、健康を保つための方法論を9回様々な角度からお伝えしました。繰り返しお読みいただき、ご自分の健康管理に役立てていただきたいと思います。    

 そもそも、なぜ運動が必要なのか。健康を保つということはどういうことなのか、というのが今回の話です。日常生活を送るためには、身体を動かすために筋肉の力が必要です。寝たきりの方は筋力が低下して、姿勢を維持できなくなります。だから、運動が必要であるという点は、誰もが理解できるでしょう。汗をかくから気持ちがいい、だから運動するという点も理解できると思います。しかし、身体を動かすということは、それだけにとどまりません。呼吸を伴った身体運動は、内臓の働きを維持・向上できます。心身の練磨に繋がります。脳(こころ)と身体(からだ)の働きを一体化し、ヒトに、無限の可能性を齎(もたら)します。

 理想的な運動法はヨーガですが、個々が継続可能な運動法を選択して、死を迎える時までお続けになることが肝要です。人類が皆心身ともに幸福であれば、この世は幸せに満ち溢れた世界となります。皆様のご健康を祈念しております。

 
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