かいよう無いか検査を
胃がもたれる、むかつく、痛い…。胃かいようのようなはっきりした病気ではないのに、こんな症状にたびたび悩まされる人は少なくない。
欧米では、このような症状が出るものを「NUD」と呼んで積極的に治療している。日本でも近年、症状に応じた治療が進んできた。
静岡県に住む60代の女性は、胃がもたれたり、食欲がなくなったりして苦しんでいた。医師にかかっても、「何でもない」「ストレス性の胃炎でしょう」と言われ続けてきた。
この女性のような症状を訴える患者が、同県伊東市にある山本医師をよく訪れる。
「胃の運動機能が悪く、NUDでした。この女性は治療して1カ月で良くなりました」と山本佳洋院長(消化器内科)。
診断つかず悩む
済生会川口総合病院(埼玉県川口市)の原澤茂院長も「症状を訴えても医師から『病気でない』と言われて悩んでいた患者さんが多い。診断がつけば納得できます」と話す。
NUDは「nono-ulcer dyspepsia」(かいようのない消化管症状)の略。まだ日本語の定訳がない。おおまかに、もたれや膨満感が主な症状の「運動不全型」と、空腹時や夜間に痛みが出る「かいよう症状型」に分かれる。
米国消化器病学会の作業部会が87年に定義と分類を発表したが、消化器病の専門家以外にはまだよく知られていない。
米国での調査では成人の4人に1人に症状があった。山本さんによると、日本でも症状のある人は同じくらいで、うち約半分がNUDだという。
これまでは「慢性胃炎」などとされることが多かった。「十分な診断がされず患者さんが置き去りにされてきた」と山本さんは振り返る。
型に応じた治療
診断で重要なのは、ほかの病気ではないことの確認だ。日本人には胃がんが多い。原澤さんによると、内視鏡でがんやかいようがないことを確かめた上で治療を始める場合が多いという。
原澤さんは「タイプに応じて治療することが大切。合った治療ができれば2週間から2カ月ぐらいで改善します」と話す。
運動不全型には消化管の運動を改善する薬を、かいよう症状型には胃酸の分泌を抑える薬をそれぞれ使う。精神的、肉体的なストレスがかかわっていることもある。食生活のリズムを正しくするとか、脂っこい食事や刺激物を避けたり、たばこをやめたりするよう指導する。
原因について山本さんらは、胃の運動機能のほか、内臓の知覚に注目して研究している。
患者に造影剤を含むカプセルを液体食と一緒にのんでもらった。15〜30分ごとにX線撮影をするとカプセルが白く写
り、胃の中で食べ物が動いていく様子が分かる。
健康な人は胃の食道に近い側にいったんカプセルが溜まり、徐々に腸に近い側に移動して腸へ。患者ではカプセルが腸に近い側に早く移動して停滞、腸に出るのが悪くなっていた。
内臓の知覚の過敏さや胃の緊張の度合いを調べるため、内視鏡検査の際に空気を入れて胃の内部の圧力変化を測った。
患者では胃の緊張が強くて内圧の増加率が大きかった。空気が入ることで健康な人よりも不快感も感じやすく、内臓知覚が敏感になっていた。
ピロリと関連?
胃かいようなどの原因になるヘリコバクター・ピロリという細菌との関係も注目されてきたが、まだはっきりしていない。
ピロリ菌に詳しい順天堂大医学部の三輪洋人講師は「除菌の効果があるという論文とないという論文がある。効果
があるとしても期待すべきほどではなさそうです」と話す。
三輪さんらの臨床試験でも、除菌をした場合と、薬効成分が含まれていないプラセボ(偽薬)を使った場合を比べ、症状の改善には統計学的に意味のある差は見られていないという。
三輪さんは「胃のもたれや痛みといっても症状は多様。患者さんの話をよく聞いて、十分な説明をして不安を取り除くことが大切です」と話している。
胃の運動
食べた物は胃の食道に近い部分(近位胃)でいったん蓄えられる。十二指腸に近い部分(遠位
胃)では1分間に約3回のリズムで収縮し、内容物を送り出している。この運動は胃電図などで調べられる。NUDでは近位
胃での筋肉の動きを含めた運動機能の異常が関連しているとみられる。
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