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東京医療福祉専門学校講師 浅川 要
明治鍼灸大学東洋医学基礎教室 教授 篠原昭二
明治鍼灸大学臨床鍼灸医学V教室講師 鶴浩幸鍼灸学博士
明治鍼灸大学学長 栗山欣彌
(社)東洋療法学校協会会長・ (社)学校法人後藤学園理事長 後藤修司
(社)日本鍼灸師会会長 相馬悦孝




【書評】  東京医療福祉専門学校講師 浅川 要

『中医臨床』
(2003年12月号 Vol.24 No.4. 通巻95号)


 本書は鍼灸によって起こることが想定される事故に焦点を当てて書かれたものではない。そうではなく、書名にも明らかなように、どうしたら鍼灸による事故を防止できるかを微に入り細を穿つかのように非常に精密に記している。そこには、例えば「診療室内のカーテンの開閉を急激におこなってはならない。カーテンを急激に開閉すると大きな鋭い音が立つ。患者が動揺し不測の事態を招く。…」といった、言われてみなければわからないような注意すべき身近な事柄が列挙されている。
 本書を最も必要としているのは、何十年も鍼灸治療に携わってきたいわゆるベテラン鍼灸師ではないだろうか。長年の治療経験はもちろん鍼灸師にとって貴重な財産なのだが、同時にともすると習慣づけられた日常に埋没して、初心者のときには持っていた細心の注意や治療家としての気配りが次第に失われていってしまうように思われる。本書はそうしたベテラン鍼灸師に「漠然と治療するな!」と警鐘を鳴らしているのである。もちろん私自身も襟を正すべき一人である。



【書評】  明治鍼灸大学東洋医学基礎教室 教授 篠原昭二

『医道の日本』
(2004年4月号 Vol.63 No.4 通巻726号)
 
 

 雨後の竹の子のように鍼灸学校が誕生し、新たな鍼灸・柔整師の数は、これまでにない増加傾向を示している。「悪貨は良貨を駆逐する」といわれるが、鍼灸あるいは柔整臨床における不注意による事故、不適応に対する施術によって引き起こされた医療過誤・過失・注意義務違反等は、一人担当者のみにとどまらず業界全体に与えるマイナス要因となりかねない。
 昨秋上梓された本書は、柔整および鍼灸の新規卒業者あるいは、すでに開業している臨床家にとっても一読の書であると思われる。
 すでに、医道の日本社から、66症例の医療過誤の貴重な事例(「66症例から学ぶ鍼灸不適応疾患の鑑別と対策」)が出されており、今なお興味をひいて講読されている。しかし、本書は具体的な鍼灸施術上の諸段階に応じて、起こりやすい事故、過誤、危険性を指摘するとともに、諸注意まで丁寧に記述されているのが特徴である。逆に言えば、資格を取って間もない鍼灸師にとっては、経験不足から意味が理解できないのではないかと思われるほどレベルの高い内容まで包含されている。
 これから新しい手技や治療法を試したい・・・そういった初学者にとって、格好の情報を提供してくれるものと思われる。また、臨床経験豊富な人にも、時代によって消毒等の意識や概念は大きく変遷しており、是非一読をお願いしたい書物でもある。
 これほどの内容を網羅して、いったいどんな治療を実践しているのか不思議に思う面や、具体的な対処にはもう少し別な方法でも良いといった反論も当然想定されるが、実際の臨床経験に基づいた細かな注意や配慮は、良い意味で、事故防止の恰好のマニュアルになるのではないかと確信する。
 恐らく著者の心底には、本書を通して鍼灸臨床レベルの向上や、現在失われつつある多くの臨床技術を事故防止という題材を通じて残し・伝えたいという、警鐘の意味も込められているに違いない。


【書評】  明治鍼灸大学臨床鍼灸医学V教室講師 鶴浩幸鍼灸学博士

『たには会報』(2004年(平成16年)12月1日発行 第37号)

 近年、医療事故や医療過誤のニュースがマスコミを賑わすようになり、医療機関での事故を未然に防ぐことが以前にも増して重要になってきている。鍼灸医療においても事故を未然に防ぐという点において同様の課題が存在し、鍼灸臨床におけるアクシデント(事故)のみならず、インシデント(偶発事象)やヒヤリ・ハットという言葉が鍼灸に関係する教育者・臨床家にも浸透しつつある。一般的にはインシデントまたはヒヤリ・ハットとは、アクシデントに対比される言葉であり、患者に実際の被害が及ぶことはなかったが、診療の場においてヒヤリとしたり、ハッとしたりした事例である。つまり、不適切な医療行為が、事前にその誤りが訂正されて患者に実施されなかったが、仮に実施されていたとすれば何らかの被害が予想されるものや不適切な医療行為が患者に実施されたが、結果的に患者に被害がなかった場合が考えられる。鍼灸臨床に関する事故を未然に防ぐためには、インシデント(あるいはそれ以前の段階)の段階で対処することが望ましいと考えられるが、そのためには実際の鍼灸臨床において如何なるインシデントやアクシデントが起こりうるのかを知る必要があり、それらを認識した上で臨床における注意事項やその対策を整理することが必要となる。清野充典先生(明治鍼灸大学同窓会たには会副会長、清野鍼灸整骨院院長)の著書である「鍼灸事故防止マニュアル」はその意味において非常に適切な書であり、より安全な鍼灸診療を行うために必要とされる内容を網羅していると考える。本書は著者の長年の臨床経験と最新の知見を合わせ、かつ分かり易い簡潔な言葉を用いて具体的な事象と事象の解説(または注意点やその対策)について書かれているため、文章を読むとその事例がイメージされ思わずハッとさせられ、心に残るのである。問答形式によって記述されている点もさらに本書を読みやすくしている。また、どのページからでも読み始めることができる点なども本書の特徴であり、御多忙な開業鍼灸師の先生方も気軽に本を開くことができるのではないかと感じる。その内容は、鍼灸臨床で実際に遭遇するであろう極めて広範囲の事象にわたっている。より安全な臨床を行うための施術者の心構えから治療前の安全確認(施術の準備)、患者に対するインフォームドコンセント、鍼灸の施術前・施術中・施術後の注意事項、さらには星状神経節刺鍼や頚動脈洞刺鍼などの比較的特殊な鍼法から鍼灸臨床でよく併用される吸角や様々な物理療法に関する注意事項にまで多岐にわたっている。本書を熟読し、臨床で起こり得る事例とその注意点を把握して診療にあたるならば、アクシデント事例は大きく減るのではないだろうか。鍼灸治療ではそのテクニックや効果のみがクローズアップされがちであるが、本書は今まであまり着目されてこなかった鍼灸臨床におけるもう一つのきわめて重要な事柄が記述されている貴重な著書であり、時代を先取りしたものであると考える。上記の点からも、鍼灸教育にかかわる教育者、鍼灸臨床家、鍼灸医学の研究者、学生、さらには鍼灸医療従事者のリスクマネジメントにかかわる先生方に座右の書として是非御一読をお勧めいたします。

【書評】  明治鍼灸大学学長 栗山欣彌

 本学の卒業生であり、本学同窓会「たには会」の副会長であるとともに、関東支部長を長年勤めていただいた清野充典先生が、このたび、「鍼灸事故防止マニュアル」と題する本を出版されることとなった。ご承知のように従来の西洋医学的診断や治療に加えて、東洋医学的な医療、とくに鍼灸や漢方医学の概念や技法を代替医療、あるいは補充医療として用いること、さらには東西両医学の融合のうえに立脚した統合医学の確立を目指す動きなどが活発になってきている。これらの流れは、もちろん鍼灸治療の繁用という時代の流れをもたらす反面、鍼灸事故の増加をも招来する可能性があることを示唆している。
 しかしながら、これらの鍼灸事故防止について教示するための書籍や文献はほとんど見当たらず、初心者や学生諸君の学習や教育にも支障があるのが現状のように考えられる。
 本書の著者は、これらの現状をふまえ、長年にわたる自己の鍼灸臨床における経験にもとづいて、事故を避けるための心構えや具体策を述べ、鍼灸医学教育の副教材として使用されることを期待していると述べている。内容的にもきわめて平易で、随所に具体例が取り上げられ、理解しやすいものとなっており、本書が広く鍼灸教育の現場で利用され、鍼灸臨床の進歩と事故の減少に貢献することを期待したい。


【書評】  (社)東洋療法学校協会会長・ (社)学校法人後藤学園理事長 後藤修司

 医療保険福祉の改革が進んでいる中で、古くて新しい東洋医学への期待も高まっています。とくに欧米における鍼治療への期待と、その導入の速さは、私たちが想像する以上です。発展した西洋医学でも対処できない症状・疾病への対応、ダイナミックな予防医療、医療経済への貢献等々、そして東洋医学と西洋医学の融合である統合医療として、今熱い視線が注がれています。アメリカでは約6割の医学部の教育カリキュラムに鍼・東洋医学関係がすでに取り入れられています。日本において約1,300年の歴史を持つ鍼灸治療は、今後ますます一般的な国民医療としての役割を積極的に担い、臨床成果や研究に関する情報発信を世界に向けて行わなければならない重要な時期に来ていると思います。
  そのためには、次の4点がポイントではないかと考えます。
1)有効・安全な医療手段であるという国民的合意があること。
2)専門職としての高い倫理観をもつ人々が提供しているのだという安心感があること。
3)身近で、受療しやすいこと。
4)経費への割安感がもてること。
  このうちの安全な医療手段であるという合意を得るためには、リスク管理、安全性への細心な配慮が肝腎です。
 本書は、長年の臨床経験を持つ著者が、これからの鍼灸師が心得ていなければならない安全性への保証のための事柄を問答形式により、具体的に書かれたとてもわかりやすい格好の書です。今、鍼灸を学んでいる学生の皆さんはもとより臨床家の方々にも一読を推奨いたします.


【書評】 (社)日本鍼灸師会会長 相馬悦孝

 このたび、清野充典著「鍼灸 事故防止マニュアル」が出版されることになった。
 近年、医療にまつわる事故がたびたび報道されるようになり、医療関係者だけでなく一般の人たちにも大きな関心事となっている。事故は絶対にあってはならない。しかし、医療行為がある以上、それに伴って医療事故も必ず起こる、と考えるべきであろう。その上で、いかにして事故を防ぐか、減らすことができるかの努力と工夫が必要である。
 鍼灸臨床は、ごくごく限られた範囲の医療行為である。それだけに、生命に関わるような重大な事故は少ないと考えられ、ましてや自分がそこに直面することはないと思われがちである。しかし、患者様の立場からみれば、どんなに些細な事故と思われることでも重大な事故なのである。
 本書は、鍼灸臨床に関わる医療事故のすべてを網羅する勢いで取り上げ、事故を発生させる禁忌事項とその理由の解説という2つから構成されている。問答形式で展開される内容は簡潔な文章でわかりやすくまとめられていて、忙しい日常の臨床の合間にも手にすることができる。安全性を追求する立場で、また現在行っている臨床を見直してみる立場でも大いに利用できる絶好の書である。
 以上、本書は臨床に携わる鍼灸師だけでなく鍼灸師を志す学生、鍼灸に関心のある医師にも一読を奨め、推薦するしだいである。