2017(平成29年)第9回世界鍼灸学会北京大会発表論文

帯状疱疹に対する鍼灸治療


日本国 東京・清野鍼灸整骨院
猪熊遥香・丸山典子・山田昌紀・清野充典


【はじめに】

当院は、開院して30年以上経過しているが、帯状疱疹に対して、鍼灸治療は発症を抑える効果があることをはじめ、発症直後であれば4日以内に疼痛を消失させることが可能なことを幾度となく経験している。早期に湿疹を消失へと導くことが出来る治療法であると認識しているが、早期の帯状疱疹に対して鍼灸治療が有効であるという論文が少ない。今回は、急性期の帯状疱疹と帯状疱疹痛に対する鍼灸治療を行い、有効性が確認されたので報告する。


【患者】
34歳、女性、大学研究施設での研究職。


【生活歴】
夏は、26から28℃の冷房が効いた室内で過ごすことが多い。日常的に0時就寝の10時起床または2時就寝の7時起床を交互に行う生活をしている。週に2、3回の飲酒。一日2?の飲水。排尿は日中7、8回。発症日の前週、数日間の強い精神的ストレスがあった。


【主訴】
右顔面部・前頭部の湿疹・痛み・痒み。右開眼困難。


【初診日】
皮膚科初診日:2017年9月11日。鍼灸治療初診日:同年9月10日。


【皮膚科診断名】
三叉神経第T枝領域帯状疱疹


【初診時の検査所見】
血圧98/62。
腹部所見は、右季肋部・右側腹部に圧痛。中央部に硬結(中?穴から神闕穴にかける範囲)。両鼠径部に拍動。舌色は紫色。


【現病歴】
2017年9月初旬に、頭痛、顔面部のぴりぴりした痛みが出現。また、ゲップ・消化不良・軟便等の消化器症状、入眠困難、全身の重だるさ、右首肩こりを伴う。9月10日、主訴症状を発症した。11日に皮膚科を受診、帯状疱疹と診断され、抗ウイルス薬と鎮痛薬を一日に4回服用開始。13日、当院ホームページにて、帯状疱疹に対する鍼灸治療の記載を見て来院。鍼灸での治療を希望したため治療を開始した。


【治療方法】
背部・下肢・上肢・腹部・頭部への鍼治療および灸治療。腹部・背部への於血吸圧療法。


【治療穴】
肝喩、腎喩、中都 他


【経過】
治療回数は全9回、35日間。初診時から4日間は、毎日治療。以後は約1週間おきに加療する。治療は、腹証・脈状などを基に、鍼治療と灸治療を背部、上・下肢、腹部、頭部に行う。また、オ血吸圧法は、体力にあわせて全5回(1、2、5、6、8診目)行った。治療開始から3日目(3診目)に、顔面部のピリピリ・キリキリした疼痛の軽減を自覚。また、体のだるさや消化器症状などの軽減がみられた。4日目(4診目)に、疼痛は大幅に軽減。湿疹の軽減を自覚。周辺症状としては深い睡眠が取れるようになった。14日目(6診目)に、疼痛が消失。湿疹の大幅な改善を自覚。疱疹部の赤みは残る。就寝時に眉間の痒み、疼き出現。来院前に受診した皮膚科にて、帯状疱疹の治癒を診断。湿疹は「にきび」であるとのこと。27日目(7診目)、28日目(8診目)には、就寝時に赤み部分が疼くように傷む。下痢・嘔吐などの消化器症状が強い。35日目(8診目)赤みの軽減。疼痛の消失。肩こり、便秘などの不定愁訴はあるが、朝の起床が楽になる。8診目で、来院終了。後日、患者本人から、手紙にて赤みの消失を知らされる。


【考察】
 国内では、帯状疱疹後神経痛に対する鍼灸治療の症例数に対して、急性期の帯状疱疹と周辺症状のものは数が少ないように考える。田辺成蹊らは、帯状疱疹で鍼灸治療を受診した患者41例中、2ヶ月以内に治療を開始した例は13例(全体の31%)であったと報告している。その治療効果については、半数以上(9例)の痛みが2割以下に減少(著効例)し、他の4例にも痛みの軽減が認められている。治療回数をみると、著効例では、新鮮例が4.9回、慢性例が7.5回であった。
 以上のことから、早期に治療を開始することにより短期間で優れた治療効果を望める一方で、発症後早期から治療を開始する患者が少ないことが示唆される。
 また、帯状疱疹に対する西洋医学的治療は、主に抗ウイルス薬の内服・点滴、非ステロイド抗炎症薬などによる疼痛コントロールが推奨されている。一方で、一部の薬剤では、腎障害などの副作用があり、腎障害がある患者などには、慎重に投薬量の調節を行う必要がある。
 鍼灸治療を行う利点として、治療における副作用の少なさがあげられる。内蔵機能が低下し、投薬治療が困難である患者に対しても治療を行うことが可能であり、患者の肉体的・精神的負担を軽減することができると考える。
 本症例では、急性期における帯状疱疹および帯状疱疹痛(帯状疱疹に伴う疼痛)に対して鍼灸治療を行うことにより症状の改善が確認できた。また、鍼灸治療が緊急性を要する急性期の治療に有用である可能性が示唆される。


【結語】
日本では、江戸末期から近代医学が導入され、国家の医療体制は、鍼灸医療・漢方医療中心から近代医学に基づいた医療へと変換した。それに伴い、鍼灸治療は、近代医学に基づいた科学化への道を選択し、現在に至っている。日本鍼灸は、現代医療で效果が得られない病気をも凌駕する治療法である。鍼灸治療は、治療技術を取捨選択して駆使することにより、緊急性を要した病態にも対応することが可能である。日本で行われている鍼灸治療は、救急医療に適していることも、大きな特徴であると言える。


【参考文献】
『全日本鍼灸学会雑誌』33巻4号 「帯状疱疹痛に対する鍼治療の効果」 田辺成蹊、柴 紘次
『東洋医学 鍼灸ジャーナル』 VOL24(2012年1月号)
『医道の日本』 2014年6月号


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