『日本醫史學雜誌』第61巻1号99頁 通巻第1557号 平成27年3月20日発行
 第116回日本医史学会発表掲載論文 平成27年4月25日・26日

「あん摩術指圧術とカイロプラクティックの関係」


清野充典
順天堂大学医学部医史学研究室


【はじめに】

あん摩術が我が国に取り入れられたのは、平安時代以前である。明治七年八月十八日に医制が発布され、「医業」に従事する全ての者が初めて法の下で管理されることになったが、あん摩術については、医制で何ら規定していない。平成二十六年度現在、医業を行いかつ開業権を持つ国家資格者は、医師・歯科医師・はり師・きゅう師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師である。あん摩術は、明治四十四年八月十四日に医業と認められ資格免許になったが、昭和三十年八月十二日に指圧術をあん摩術と法制化するときの主体は、米国で行われていた脊椎・骨格の矯正療法であるカイロプラクティック等であったことについて述べる。


【本文】
あん摩術は、明治四十四年八月十四日に制定された「按摩術営業取締規則」によって営業免許が交付されたことにより、法の下で管理されることになった。按摩実施者は、大正九年四月に一部改正され、柔道整復術に準用されることとなり、日本固有医術の施術者に位置づけられる。明治期末より大正期にかけ医療類似業者が増加したことを受け、昭和五年一月三十日に内務省衛生局長は医療類似行為を業とする取締を決定した。東京府は、同年十一月に「療術行為に関する取締規則」を定め、医師、歯科医師、按摩師、はり師、きゅう師が行う医療と一線を画した。昭和二十三年六月に厚生省医務局長らは、新たに「医業類似行為」を定義した。昭和三十年八月十二日に厚生省医務局医事課は、「医業類似行為」と認めた行為の中で、「指圧とは導引・柔道活法・古来のあん摩術から発したものであるが、大正初期米国の各種整体療法の学理と手技を吸収した施術である」として指圧術を法律上あん摩として取り扱うこととした。各種整体療法とは用手療法(マニュピレーション)のことであり、カイロプラクティック・オステオパシー・スポンジロテラピー等を意としている。カイロプラクティックは、戦時中「脊椎指圧療法」と呼称されており、高橋迪雄の「正体術」、整体の元祖である山田信一の「整体術」、平田了山(内蔵吉)の「触圧療法」、浪越徳治郎の「圧迫療法」とともに、指圧術として認知されていたことが背景としてあげられる。昭和三十九年に創設された「あん摩マッサージ指圧師」は、導引術やヨーガ療法など国内外の様々な手技療法や運動療法を行うことができるとした資格免許であると言える。


【結語】
昭和二十三年一月一日に発令された「医業類似行為業者」登録制度は、昭和三十八年十二月三十一日に終了した。平成二年に東洋療法試験財団が設立され、生存する医療類似行為業者全てに「あん摩マッサージ指圧師」免許を交付したことにより、「届出医業類似行為業者」は消滅した。現在、「医業類似行為」とされた「手技、電気、光線、刺戟、温熱療法」の5つは、医師、歯科医師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師または柔道整復師の法令で正式にその資格を認められた者以外行うことは禁じられている。昭和三十九年に創設されたあん摩マッサージ指圧師資格免許は、カイロプラクティックを含む国内外の様々な手技療法を行うことができるとした資格免許である。近年、カイロプラクティック術については、未だ国民、医業従事者及び地方公共団体間の解釈において、乖離がある。現在の日本において、カイロプラクティック術を医業とする際は、「医師」「柔道整復師」または「あん摩マッサージ指圧師」の資格を有しなければ行うことができないと言うことを結びとしたい。


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