急性期における腹部の痛みに対する鍼治療
2012年(平成24年)世界鍼灸学会バンドンシンポジウム発表論文

日本・東京 清野鍼灸整骨院 村田朝子・南波利宗・山田昌紀・清野充典


【はじめに】

鍼灸治療は、急性期の症状に対応可能な医療であると考えている。
当院では、様々な急性症状に対し、著效例が多数ある。
その中でも、直接打撃による腹部の痛みに対する著效例を紹介する。


【本文】
当院は、10数年来、極真会館空手道の競技大会ドクターを引き受けている。
打撃系の格闘技である空手道は、骨折・打撲・挫傷が多い競技である。
その中で、腹部のみぞおちに正拳がタイミング良く入った場合、急激な腹部痛が発生し、呼吸困難・運動困難に陥る。
中には、意識を失う者さえいる。そんな症状に対し、鍼灸治療で即座に回復が可能な方法がある。
 それには、「GV8」という経穴を用いることである。用いる鍼は、0.20×40mm、銀鍼である。
選手は、意識が遠のいているか痛みで満足な肢位をとることが出来ないことが多い。
治療する肢位は、腹臥位が望ましいが、側臥位でもかまわない。
「GV8」にゆっくり捻鍼で穿皮をし、3p程度刺入すると呼吸が整い、意識回復してくる。
そのまま、鍼妙を感じるままに運鍼している(刺入を押し進める)と、痛みが治まり、ほぼ打撲を受ける前の状態に回復する。
この方法は、誰に用いても同様の結果が得られる。


【考察】
この治療法を偶然発見する前には、日本鍼灸の特徴に基づき試行錯誤を繰り返している。
「GV8」は、語源上「筋肉が縮む」という意味である。
ツボの特性を考慮して選択したところ、上記のような效果を得ることが出来ることを発見した。

「鍼妙」とは、鍼を身体に触れた際に術者が感じ取れる感覚である。
中医学で言う「得気」とは、日本で言う「鍼響」のことであり、「鍼妙」は中国医学にはない治療技術である。
日本では、鍼治療の手技を行う際、「鍼妙」と「鍼響」を大切にしている。日本人は治療を行う際、「鍼響」よりも「鍼妙」を大切にする。
この感覚は、診療を行う際、必要不可欠なものであると考える。
日本人独特とも言えるこの感覚は、様々な手技手法を考案してきた要因だと考える。
「運鍼」とは、様々な鍼治療の手技を駆使することである。


【結語】
鍼灸治療は、急性期症状に顕著な效果を呈することが可能な医療である。
難病や難症状に対し、一つの治療方法であきらめることなく、日本古来より伝承されてきた鍼灸技術を駆使することにより、
劇的な効果を上げる治療方法が発見できることは少なくない。
日本鍼灸の特徴が、多くの国々で理解され、医療現場で活用されることを願っている。


<< 清野鍼灸整骨院(研究業績・刊行物・メディア)へ戻る