症例報告

 

 

腓骨遠位端部骨折の一症例

 

 

清野充典1)、池内隆治2)、小野寺啓1)、今田開久1)

 

1)清野鍼灸整骨院 

2)明治国際医療大学柔道整復学科

 

連絡先 〒182-0024 東京都調布市布田1-45-1 シエロビル3F

     TEL 0424-(81)-3770  FAX 0424-(89)-3990

E-mail  seino-1987@blue.vecceed.ne.jp

key words : 非観血療法、腓骨骨折、固定法、再整復


A Case Study of Distal-end Fracture of the Fibula

Mitsunori SEINO1, Takaharu IKEUCHI2, Kei ONODERA1, Hiraku KONTA1

1Seino Judo Seifuku Clinic, Japan

2Department of Clinical Judo Seifuku Therapy, Meiji University of Integrative Medicine, Japan

Keywords: Conservative treatment, Peroneal distal-end fracture, Fixative, Manual reduction

AbstractJudo-seifuku therapy is a traditional Japanese medical treatment and is widely accepted by Japanese people as a major conservative treatment for fractures.

In this report, we describe the case of a 60-year-old woman who fell while walking and suffered injury to her right leg. An X-ray examination performed at the first presentation (to the orthopedic department) gave a diagnosis of fracture of the distal end of the right fibula. After providing informed consent, the patient elected to undergo conservative treatment. The initial reduction procedure resulted in a favorable reduction position, but it could not be maintained thereafter. After two weeks, re-dislocation was noted and additional manual reduction was performed.

For treatment of fractures of the ankle, whether it should be treated surgically or conservatively must be determined depending on the type of fractures and degree of dislocation. In particular, residual dislocation between the distal end of the fibula and the ankle greatly affects the recovery of the function of the ankle joint. Therefore, the correct anatomical reduction of the fibula is needed.

In general, fresh fractures are easy to reduce and likely to result in a favorable reduction position following either surgical or manual reduction. However, it is not unusual that re-dislocation occurs following conservative treatment. In the present case, although the initial manual reduction resulted in a favorable reduction position, re-dislocation occurred after two weeks. We then performed an unusual manual reduction procedure of fitting the proximal fragment  to the distal fragment at two weeks after fracture, when remodeling is thought to begin. This procedure resulted in a favorable reduction position and prevented subsequent re-dislocation.

There is room for debate over whether re-reduction of a healing fracture should be performed when re-dislocation occurred at a relatively late point. However, there is no dispute that reduction, whether surgical or non-surgical, should be performed with the aim of obtaining anatomical reduction. Although a single case report, this work describes a case of fracture of the distal end of the fibula that was re-reduced two weeks after injury, focusing on our manual reduction and immobilization procedures.

【要約】

柔道整復術は日本における伝統医療のひとつであり、非観血療法の対象である骨折における医療の担い手として、広く国民に支持されている。

今回の報告は60歳の女性で、歩行中に転倒し右足を負傷した症例である。初診のX-P検査(整形外科)の結果、右腓骨遠位端部骨折と診断され、インフォームド・コンセントの上、非観血療法が選択された。本例では、初回の整復で良好な整復位が得られたが、その後整復位を保つのが困難で、2週間後に再転位が確認され2回目の徒手整復を行った。

下腿骨果部骨折は骨折のタイプや転位の程度によって外科的に対応すべきか、非観血的に管理すべきか十分な検討が必要とされる。特に腓骨遠位端部と距骨の間での転位残存は、足関節の機能の予後に大きく影響することから腓骨の正確な解剖学的整復が求められる。

一般的に骨折した直後は整復が容易で、外科的整復でも徒手的整復でも良好な整復位を得やすい。しかし非観血療法の場合、その後の経過で再転位することは稀ではない。本例も初回の徒手整復では良好な整復位が得られたが、2週間後に再転位が認められた。そこで骨折後のリモデリングが始まるとされている2週間経過の時点で近位骨を遠位骨片に整復するという通常とは全く逆の観点での徒手整復を試みたところ良好な整復位を得ることができ、且つ、その後の再転位を防止することができた。

骨折の治癒過程において、比較的経過した時点での再転位に対し、再整復を行うべきか否かについては未だ議論の余地がある。しかし、整復は外科的でも非観血的でも解剖学的整復位を得ることを目的として行われるべきであることに異論はない。1例ではあるが、骨折後2週間で再整復した腓骨遠位端部骨折について、我々が行った徒手整復法と固定法を中心に報告する。


T【はじめに】

歩行中転倒して右腓骨遠位端部を骨折し、非観血療法を希望した例に対し、初回の整復では遠位骨片を近位骨片に整えるという通常の徒手整復を行った。骨折後2週間での再転位に対しては、初回とは全く逆の観点で近位骨(腓骨骨幹部)を遠位骨片(腓骨遠位端部)に整えるという徒手整復を行い良好な整復位を得た。

 一般的にリモデリング期に入るといわれている骨折後2週間の時点で再転位しても、徒手的に再整復が可能である場合があることを報告すると共に、再転位時に行った徒手整復法と固定法についてこれまでの方法との違いを報告する。

U【症例供覧】

患者  60歳 女性

診断名 右腓骨遠位端部骨折(遠位骨片の後外上方転位を認める)

主訴  右足関節部痛

初診日 平成X35

現病歴:平成X35日午前10時頃、仕事先で段差につまずき右足を捻って転倒。直後より足に激痛を覚え、歩行不能となった。1015分後に患部の腫脹が著しくなり、近医を受診し、右腓骨遠位端部骨折と診断された。手術療法をすすめられたが、本人は非観血療法による治療を希望し当院に来院した。

現症:歩行不能、荷重痛、軸圧痛、限局性圧痛、足底からの叩打痛、変形、腫脹あり。

X線所見:正面像において、腓骨遠位端部の骨折及び、遠位骨片の外側への転位が認められた。側面・斜位像において、末梢骨片の後上方への転位が認められた。加えて距骨の外方への変位が認められた(図1)。

V【整復法】

患者を仰臥位として、術者は足関節を両手で持ち、助手には下腿中央より下方を把持させた。術者は徐々に末梢牽引し短縮転位を除去した。その後、術者は末梢牽引している手を第2助手と交替し、転位している骨片の整復に移った。遠位骨片の側方転位を術者の手掌で直圧して整復した。次いで後方転位している骨片を第2指から第4指を用いて持ち上げるようにして整復した。後方転位の整復が終了すると同時に、第2助手は牽引している足関節を船底状に操作し整復を完了した。

W【固定法】患部の腫脹軽減のために側方、後方より綿花で作成した圧迫枕子を添え、テープを用いて固定を行った。冷湿布を施し、大腿中央より足先まで背側にクラーメルシーネをあて、包帯にて固定した。固定肢位は膝関節軽度屈曲位、足関節底屈10°とし(図2)、右患側肢への体重負荷を禁止し、松葉杖歩行を指示した。

X【経過】

2診:36日(2日目)レントゲン撮影(図3)。患部に自発痛はなく全身症状は良好だったが、レントゲン診断等の結果、整復が不十分であったため、前日同様の再徒手整復を行った。骨折部の整復状況を触診にて確認し、再度前日同様に固定した。

7診:318日(14日目)レントゲン撮影(図4)。体重の付加を禁止したまま2週間経過。全身症状は良好。しかし、レントゲン写真により骨折部位の転位を認めた。可能な限り正常な位置へ戻す整復を検討した。患部を触診した結果、骨癒合が完全に行われていないと判断し、再度徒手整復を行った。この整復では、近位骨片に前方より後方への直圧を加え整復した。整復後、生ゴムで近位骨片を強く後方へ圧迫し、テープを用い固定した。その後、前日までと同様の固定を行った。

17診:48日再度レントゲン撮影(図5)。レントゲン撮影した際の診断をうけ、治癒とした。

Y【考察】下腿骨果部骨折は、下腿から足部でおこる骨折のうち最も発生頻度が高い。足関節に大きな外力が加わった際に骨折が生じ、下腿もしくは足部が固定された状態で、下腿と足の間に回旋力が加わって発生する。骨折の型も多く存在し、分類も多岐にわたり、代表的なもののひとつに、Lauge-Hansen分類がある1)2)。この分類は受傷時の肢位と外力による距骨の運動方向から骨折を4タイプに分類し、更に骨折の様式と靭帯の断裂により重症度を分けている1)2)。この分類によると、本例は、足部が回外位で外旋が強制されて生じる回外―外旋骨折(supinationexternal rotation fracture)であり、また脛腓靭帯部から2.5cm以内に骨折線があることからstage 2に相当した。Lauge-Hansenの分類によれば、外果骨折に対する保存療法の適応はStage1(回外−内転骨折)Stage2(回外-外旋骨折)であるとされている2)。

下腿骨果部骨折の治療は、非観血療法と手術療法に大別され、いずれの治療法を適応するか判断に迷うことが少なくない。しかし、両者の治療成績を検討した報告3)では、両者の成績に差は無く、むしろ整復の良否が治療成績に影響を与えるとされている。本例では、初回の整復と固定は遠位骨片(腓骨遠位端部)を近位骨(腓骨骨幹部)に合わせる一般的方法を取ったが、2週間経過の再転位に対して、まったく反対に、近位骨片(腓骨骨幹部)を遠位骨(腓骨遠位端部)に合わせるように整復し、且つその作用を保つように固定したことで、その後の再転位を防ぐことができた。今回の症例は、遠位脛腓靭帯の損傷により遠位脛腓関節の相当な不安定性が生じていたことが、一般的な整復法と固定法で整復位が保持できなかったものと考えられた。このような靭帯損傷をともなう外果骨折では、近位骨(腓骨骨幹部)を遠位骨片(腓骨遠位端部)に合わせるという整復操作によって整復位を安定に保つことができることが示唆された。

Z【結論】

初回整復の2週間後に再整復に至った、遠位脛腓関節靭帯損傷を合併した外果骨折について1例を報告した。再整復において、近位骨(腓骨骨幹部)を遠位骨片(腓骨遠位端部)に合わせるように整復したこと、加えてその作用を保つように固定したことで良好な整復位を得ることができた。

 靭帯損傷を伴う外果骨折の場合、通常の徒手整復の原理(遠位骨片を近位骨に合わせる)と逆の方法で整復することで解剖学的整復位を得ることができ、且つ、整復位を維持できることが示唆された。

 

 

[【引用文献】

1)Lauge-Hansen N: Fracture of the ankle,U.combined experimental-surgical and experimental roentgenologic investigations. Arch Surg 60, 957-985,1950

2)Lauge-Hansen N: Fracture of  the ankle, X.Prpnation-dorsiflexion fracture. Arch Surg 67,813-820,1953.

3)冨士川恭輔、鳥巣岳彦:骨折・脱臼,第2版,南山堂,東京,2005886-904

 


 

1 初診時における受傷部のレントゲン写真

左 正面像 腓骨遠位端部に骨折線が認められ、遠位骨片が外下方に転位している

中 側面像 距骨と脛骨の解剖学転位はほとんどみられない。

右 斜位像 近位骨片の前内方への転位が認められ、遠位骨片が後下方に転位している。


 

2 初診時の患部の固定

上段 左 綿花枕子と紙絆創膏を用いた患部の固定

 中 テープを用いた患部の固定(足関節底屈10°)

   右 包帯を用いた患部の固定

下段 左 クラーメルを用いた下肢の固定(膝関節軽度屈曲位、足関節底屈10°)

   右 包帯を用いた下肢の固定


 

3 受傷日翌日の受傷部レントゲン写真

左 正面像 腓骨遠位端部の転位が残存する

右 斜位像 初診時と同様の転位がみられる


 

4 受傷後14日目の受傷部レントゲン写真

左 正面像 腓骨遠位端部の側方転位は改善

右 斜位像 腓骨遠位端部の前後方向の転位が残存

 


5 受傷後35日目受傷部レントゲン写真

左 正面像   右 側面像 前後方向の転位改善