入浴からくる不養生
 世界中の民族からみて、日本人はお風呂を最も好む人種のようですが、特に東京をはじめとする都会人は毎日入浴する人がほとんどのように思われます。
たしかにお風呂に入ることは、気持ちがいいことです。それは、身体が暖まることと、身体の汚れがとれることが、大きな理由でしょう。しかし、この入浴こそが、日常生活の中で病気を作り出す大きな落とし穴とも言えます。

 人間が病気になる一番の原因は『疲労』することです。
疲れると抵抗力がなくなり、感染し易くなりますし、集中力もなくして事故にも遭いやすくなるからです。
日常生活で疲労しやすい行動に、A.入浴 B.食事 C.階段の昇降考えられます。
これは誰もが行っている事です。しかし、このことが、体力を消耗しやすい事だということを認識していただきたいのです。

では、どういう点が疲労につながるのでしょうか?
ここでは、入浴についてのみお話します。


1.入浴の時間数

2.入浴の時間帯
3.入浴(お風呂)の温度
4.朝の洗髪(朝シャン)
5.入浴の仕方
6.入浴を控えるべき時
7.入浴とアトピー


【1.入浴の時間数】

 皆さんは何分間お風呂に入っているでしょうか。
湯舟に入る時間と身体を洗っている時間を合わせて20〜30分ぐらいでしょうか。
 当院にいらっしゃる方の入浴時間は、バラバラですが、少なくとも、1時間以上入浴している人は、皆さん一様にどこか身体の不調を訴えております。
中には、毎日2時間湯舟に入っている人もいます。

 何故このように長時間入っているのか聞いてみますと、「身体が冷えやすく長くお風呂に浸かっていると、暖まるから」というのが理由のようです。

 人間の皮膚表面の体温は約36度です。身体の内側の温度は約37度です。
38度以上のお湯に入ると最初お湯が熱く感じますが、少し時間がたつとちょうど良く感じるでしょう。
それは、身体がお湯の熱を奪うからです。その時間は30秒〜1分ぐらいではないでしょうか。
それから、もう少し時間がたつと、今度はぬるく感じてきませんか?
それは、皮膚が開いて、今度は身体の熱が取られていくからなんです。大抵の人は、そこで追焚きをするか、お湯を足すでしょう。
その後はその繰り返しです。 こんな事を1時間も2時間も続けていたらどうなると思います?
そう、身体が疲労するだけなんです。
ただ、身体を暖めるだけなら、2〜3分もあれば充分です。ただ、お風呂に入って、ゆっくりくつろぎたい人には、短すぎますよね。あとは心とバランスをどうとるかです。
体力の無い時は短めに、体力のある時は、少々長くても問題ないでしょう。

 私の個人的な感想では、他の要素もからみますが、30分以上湯舟に浸かった人は、何らかの不調を訴えやすくなる人が多いようです。
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【2.入浴の時間帯】

 お風呂に入る様になったのは、安土桃山時代あたりのようですが、電気の無かった昔は、日が暮れる前に入っていた人が多かったことでしょう。
現代人の入浴時間は、実に様々です。
朝シャンにはじまり、夜中に入浴している人も相当いるようです。
先程もいいましたが、入浴することは、疲労しやすい、つまり体力がいることなので、身体が疲れている時は、やめた方が良いのです。

 身体は、夜の8時を過ぎますと、だんだん内臓は休息を取りたいと思い始めます。
夜10時を過ぎますと完全にお休みタイムになります。そう考えますと夜10時過はあまり入浴しない方がいいという事になります。
 身体が休みたいと思っている時に興奮させる事になるからです。

  よく身体が冷たいから(寒がりだから)お風呂に入ってすぐお布団をかぶるという人がいますが、そういう人は、身体の“冷え”を増長させます。お風呂に入ったあとは、身体は暖まっていますし、心臓も活発に働いており、皮膚も開いています。
そんなとき、身体を休める形、つまり寝るということをしたらどうなると思いますか?
 まず、心臓に負担がかかります。
次に皮膚が開いているため、夜遅ければ、遅いほど、冷たい外気が身体の中に入り込み、身体は冷えます。
おまけに身体は暖かいため、布団をかけていることはイヤになり、無意識のうちに布団をはね除ける事になるでしょう。
 結果的に身体の中に熱を作る事をやめたまま(体温の維持をしない)身体が冷やされて行く事になります。
 1日ぐらいなら大丈夫でしょうが、これを毎日毎日365日続けたら大変なことになります。
入浴後は、30分以上は起きていて身体を鎮めるか、夜遅く入らないといけない時は、2〜3分の入浴時間にすると良いと思います。

私の個人的な感想では、
(1)夜10時過に毎日入浴する人は、身体がだるいなどの不調を訴えるようになります。
(2)夜11時過に毎日入浴する人は、どこかに痛みや不調を感じやすくなるようです。
(3)夜12時過に毎日入浴する人は、どこかの不調を持ちながら、我慢して生活している人が多いようです。
(4)夜1時過に毎日入浴する人は、西洋医学の病名診断名を付けられやすい人のようです。

 では、何年ぐらいそういう生活を続けるとそうなるのでしょうか。
これも個人的感想ですが、何年で具合が悪くなるかは、年齢と性別によります。また、入浴以外に他の生活に不養生をいくつしているかによっても違います。
ですから、今お話しした生活を何年も続けてもまったく問題のない人もいます。
ただ入浴が遅い人は食事の時間も遅い人が多くセットで考えると意外に決まった年数が出てきます。
あくまでも個人的な感想ですが、
(1)夜10時過に毎日入浴する人は、12年ぐらい
(2)夜11時
毎日入浴する人は、7年ぐらい
(3)夜12時
毎日入浴する人は、3年ぐらい
(4)夜1時
毎日入浴する人は、3ヶ月〜1年ぐらいの生活を続けると、まず不調を訴えるようになります。
身体の不調は痛み、発熱で教えてくれる事が多いので、そのようなサインが出たらご自分の生活を振り返って見てもらいたいと思っています。

 さて、夜の入浴の話ばかり進めてきましたが、では朝の入浴はどうでしょうか?

基本的に朝の入浴は良くないと思います。
ただし、入浴の方法によると思います。
 時間帯としては、日が昇ってからが良いと思います。
朝方は1番気温が低く、体温も低いですから、身体の冷たさや寒さを解消するために、よく朝風呂をする人がいますが、このことは心臓に負担をかけることになります。
また、若い人は、入浴した後すぐ会社に出掛けたりする人が多いようですが、日本は気温が体温より低い事が多いですから、身体を冷えやすくします。気温が高い夏は、朝の風呂は問題ないといえますが、クーラーの効いている部屋で一日働く人にとっては、考え物です。
夏に寝汗をかいて朝、気持ち悪い時は、温めの温度の湯に短めに入るか、シャワー程度にしておいた方が無難でしょう。

 お風呂に入るのは、身体の汚れをとり、その後ゆっくりできる時間帯が一番理想です。
入浴後気温があまり低くない時間帯なら尚理想的です。

日が暮れる前の夕方に入るのが一番いいのではと思っております。
現代社会生活では、殆ど無理な話ですが、休みの日ぐらいそういう生活がしたいものですね。
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【3.入浴(お風呂)の温度】

 熱海の温泉は、何にでも効くなんて事を聞いたことはありませんか?

40度後半の温泉源はかなりありますが、一般的に熱いお風呂は身体によくないようです。

 体温は約36度、身体の中の温度は約37度です。
お湯の温度は38度ぐらいから当初入りはじめると身体の負担は少ないと思います。
2〜3分も入るとお湯がぬるく感じると思いますが、気温の高い夏は39度、冬でも40度ぐらいの方が身体には優しいようです。

 お風呂あがりに水をかけると皮膚はしまり、体温の維持には最適です。

冷たい水だと心臓によくありませんが、30度ぐらいだとさほど問題はないと思います。慣れてくるともっと冷たくても大丈夫でしょう。
冷たい水は、とてもかけられないという人には、水でしぼったタオルで身体を拭くことをおすすめします。
いずれにしても、水をかける時は、
身体が十分に温まっていることが必要です。
温まっていないとき水をかけるとかえって身体が冷えることになるのでご用心を!!

 さて、よく熱い風呂でないと入った気がしないという人がいますが、どうして熱いのを好むようになったか話を遡ってみると、やはり身体の冷えやすいのが始まりのようです。
 一日中クーラーの中で、仕事をしていたり、一日中冷たい物を召し上がっている人は皮膚表面 がかなり冷たくなっていますので、低い温度ではすぐに身体が暖まらないからです。
お湯の熱をとらないと身体は暖まりませんから熱いお風呂を好むようになるということです。
この場合熱いお風呂に入らないと身体が暖まらないので、仕方がないと思いがちですが、ぬ るいお風呂に浸かっていると皮膚が開いて意外に早く身体は暖まってきます。
むしろ熱い風呂は皮膚が強く抵抗し締まったままでいますから、長くお風呂に浸かってしまう事になるのです。
これが疲れの原因となってしまいます。
ただし、すぐぬるいお風呂には入れないでしょういから、41〜42度程度から徐々にぬ るくしていった方がいいかもしれませんね。
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【4.朝の洗髪(朝シャン)】

 若い女性は、朝髪の毛を洗って出掛ける人が多いようです。
夜の入浴とは別個に、朝髪を洗うことは独立した行為なのでしょうか?

 毛のあるところは、大事なところを守る意味もあるのか、頭には多いですよね。
血液も40%ぐらい頭に集まっており、東洋医学では陽気の盛んなところと言ったりもします。
朝、頭にお湯をかけて頭皮が開いたまま外に出ますと、頭は冷えやすくなります。陽気の盛んな人(男性)で、特に、毛の薄い人は頭の熱がよく保たれている人ですが、髪の毛の多い、特に女性は身体の熱を作り出すには、力が弱い人と考えられます。
若い女性が朝、洗髪して出掛ける事は、身体を冷やす事につながり、生理が不順になったり、出産にも影響が出てくることにもなりかねません。とりもなおさず、肩が凝りやすくなることは間違いないところだろうと私は考えています。
 朝、どうしても必要に迫られている時は、ドライヤーをしっかりかけ少し家でゆっくりしてから出掛けると良いのではないでしょうか?
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【5.入浴の仕方】

 昔は、草履をはいて旅をしていましたから、旅籠(はたご)につくと足を洗ってもらったものです。時代劇によく出てくるシーンですが、これは足の疲れをとるのに一役買っています。

 「足浴」は、身体の調子が悪い時には最適です。
足首よりちょっと上までお湯につけると気持ちがいいようです。
バケツにお湯を入れて入る時は、37度ぐらいの温度に足を入れ、ぬるく感じたらお湯を少しずつ足していきます。40度ぐらいになるまで、お湯を足します。
季節や室温にもよりますが、10分〜15分ぐらい足をつけていると汗ばんでくると思います。
その頃がやめどきです。
あとは、足と身体の汗をよくふき、下着を取り替えます。
冷えた身体や疲れた状態を解消するのに試してみるとよいと思います。

 同じ様な方法に「腰湯」というのがあります。
たらいにお湯を入れて、お尻のみ入れます。
あとは足浴と同じです。いずれも身体をすっぽりお湯に入れないことにより、心臓への負担を防ぎます。
健康な時でも、湯舟に入る時は、足からゆっくり入った方がいいでしょう。
身体を洗う時も、心臓から遠いところから洗うといいと思います。

脚(あし)、手、身体という順です。頭は身体の調子が悪い時は、洗わないようにする方がいいと思います。
入浴中、特に身体を洗っている時は、冷えやすい状態になりますから、室温を高くするのが理想的ですが、そうでない時は、なるべく手短に身体を洗うように心掛けるべきでしょう。
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【6.入浴を控えるべき時】

 お風呂に入る事は、体力を消耗する事ですから、体力の無いときに無理して入ることは危険です。
お酒を飲んでいる時にお風呂に入って心臓発作が起きたり、脳内出血にみまうということは一般 的ですので、皆さんよくご存知ですが、痛みが発生した時が身体が弱っている時だ、という認識がない方が多いせいか、いつでも、どんな時でも入っているなぁ〜というのが、私の実感です。

 “腰が痛くなったので、風呂に入って暖まったら良くなると思って…”といって入浴し、翌日動けなくなったという話を聞きませんか?
 これは、実に多いのです。
痛みが出たら、身体が弱っている時ですので、すぐに寝ることです。
さすがに熱が出たら風呂に入る人はいないようですが、寒気がするので暖まったらよいと思ってお風呂に入る人がいますが、これも逆効果 です。痛みも熱も寒気も、とにかく不快な症状があったら、みんな“内臓の悲鳴”だと思っていただければ問題のないところだと思います。そんな時は、早く身体を休めて下さい。気持ちの悪いときは、手と足と顔を洗うのみとしたほうが、無難です。
あとは身体をふく程度がいいでしょう。

 ちなみに身体をふくときは、お湯よりもアルコールを暖めたものを使った方がいいようです。
身体をふいたあと、サッと乾くので熱が奪われにくく、体温が下がりません。

 もう一つ付け加えると、身体が極端に興奮している時、つまり飲酒中は勿論ですが、走ってきた直後とか、怒っている時とかは、入浴しない方がよいと思います。
血液の流れが速かったり、一カ所に集中している時は危険です。
食後も胃に血液が集中し、消化しようとしていますので、30分以内に入浴するのは、好ましくありません。
腹いっぱい食べた時には、もっと時間をあけた方がいいでしょう。

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【7.入浴とアトピー】

 アトピー性皮膚炎のお子さんの方は、お風呂に入れるとかゆがりませんか?
からだが暖まると湯舟で身体をぼりぼりかきだすという経験をもつお母さん方は少なくないと思います。

 アトピー性皮膚炎と診断されたお子さんの皮膚は、カサカサしていたり、ジクジクしていたり、中には汁が出てくる場合があります。皮膚は外からの刺激(外敵)から守る働きをしています。正常な皮膚の上におにぎりぐらいの細菌を乗せても感染することはありません。
 暑かったり、寒かったりすると皮膚の毛穴が開いたり、閉じたりして体温を調節しています。
アトピー性皮膚炎のお子さんの肌は、正常な皮膚の働きができませんので、温度調節が難しく、お湯の熱さをすぐ感じるのです。
また、アトピー性皮膚炎のお子さんの身体は、身体の内部が冷えています(内臓の働きが低下、もしくは成長が未発達のため、体内に熱を作りだし、体温を一定に保つ力があまりないため)ので、身体に熱が入る事を好みます。従ってアトピー性皮膚炎のお子さんはお風呂に入るとすぐ身体が暖まりやすい状態にあるといえます。湿疹の範囲が広がれば広いほど、この傾向は強まります。

 身体が暖まると、かゆくなるのは、内臓の働きが弱い事を意味しています。
入浴をすることは、疲労することですので、身体の弱いお子さん、特にアトピー性皮膚炎のお子さんは、ぬるめのお湯に短めに入浴する必要があります。

 赤ん坊の体温は、やや高めで36度から4〜5分ぐらいは、いつもありますが、お風呂の温度は、それより1度ぐらい高めでいいのです。
それ以上高い温度に入れると特にアトピー性皮膚炎のお子さんは、すぐにかゆくなってしまい、身体を疲れさせてしまいます。入浴時間(湯舟に入っている時間)も2〜3分が適当でしょう。

 入浴後、皮膚がジクジクしているお子さんは、皮膚表面 を洗浄した方がいいでしょう。いくらお風呂場や湯舟をきれいにしていても、雑菌はどこにでもいるからです。
洗い流すには、精製水が適当でしょう。
30〜31度ぐらいに暖めるとジクジクの肌でも痛がりません。手に掛けてみて“するり”と精製水が通 り抜ける感じが適当な暖かさです。
温度は室温や気温により感じ方が違いますので、お子さんが痛がらない温度を研究して見て下さい。
精製水は薬局で売っていますが、1本100円近くかかります。面倒でなければ、浄水器などの水を一度沸かして、冷ましておき、使用するとき少し暖める方法をとると経済的です。

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